2 回目の喜界島訪島

地下ダム – 地下深くに横たわるトンネルは圧巻

喜界島は、水を通す島尻層を基盤として、その上に水をよく通す石灰岩の層が覆う形で成り立っている。
このため、地下の保水能力が著しく乏しい。
雨水は石灰岩を伝って、そのほとんどが海に流れ出てしまう。

喜界島の地下ダムは、海に向かって流れ出す地下水を地中で堰き止め、石灰岩の空洞に蓄えることを目的に建造された。
地下に貯蔵された水を動力で汲み上げ、島の畑に供給する。

これにより、農業用水の確保が容易になる。

2008 年 5 月現在、ダム本体は完成している。
畑へ水を供給するためのパイプラインを整備している段階だ。

その地下ダムを見学できるということで、迷わず向かった。

場所は、喜界地区水管理センター。

予約をしていたので、名前を告げ、案内を受ける。
まずは説明ビデオを見ていただく、とのこと。
建物の 2 階に上がり、広々とした部屋に通される。

ここで担当の方から説明を受け、その後、説明ビデオが流された。
ビデオでは、地下ダムの事業概要から工法まで、細かに判りやすく説明されていた。

十数分のビデオを見た後、いよいよ地下ダムへと向かった。

長い階段の先に。

ビデオを見た建物の裏手に、地下ダムの一部である、トンネルへの入口があった。

扉を開けると、中には深い階段があった。

この階段をゆっくりと下りていく。

地下トンネルに圧倒される。

何段あったか判らないほどの階段を下りると、そこには長く続くトンネルがあった。

圧巻である。
私は息を飲み、しばらくその場でトンネルの先を眺めていた。

このトンネルはなぜ存在するのか。

その説明のためには、まず、地下ダムの建造方法をみていく必要がある。

簡単に言えば、地下ダムは地表部分を掘り返し、地中に壁を造り、また埋める、この作業を繰り返して造られていく。

しかし、喜界島では一部この工法を用いることのできない地区があったのだ。
それが、オオゴマダラの生息地である。

オオゴマダラは、チョウの 1 種。
オオゴマダラの詳細については [ オオゴマダラ ] のページをご覧いただくとして、地下ダムの建造予定地の一部に、オオゴマダラの生息地が含まれていたのだ。
チョウの住む森を掘り返すということは、彼らから住処を奪ってしまうことになりかねない。

そこで、何とか地表を掘り返さずに工事を進められないかと考えた結果、地下トンネルを使った工法が採用されることになった。

まずは、オオゴマダラの生息地から外れたところに垂直に穴を掘り、そこからトンネルを掘る。
トンネルが完成したら、その中に重機を運び、地上で行っていた工事と同じ方法で、トンネルの下にダムを建造する。

ダム本体が完成した今、このトンネルは無用ではあるのだが、ダムの造成記念と観光スポットとして、今もこうして残っているという。

トンネルの中を進んでみる。

途中には、転々の情報ボードや展示ケースなどがある。

中でも目を引くものが、これ。

トンネルの中から、地下ダムに溜まっている地下水を見ることができる。
そして、画像が暗くて見えにくいかもしれないが、この窓の下にある蛇口、これをひねると、地下水が出てくる。
塩っ辛いが、味見もできる。

地下トンネル内では、ところどころ、地下水が染み出ている箇所もある。
決壊等はないだろうが、ちょっと心配。

地下トンネルの半ば、そこから先は立ち入り禁止区域となっている箇所がある。
ここで、地下ダムツアーは終わりだ。

地上を目指して。

ここからは、螺旋階段を上がって地上を目指す。

途中、地下ダムの貯水量をみることのできる管があった。

ようやく上りきった。

地下ダムに、思う。

喜界島という小さな島に、これほど大規模な仕組みがある。
このことに、ちょっとした感動を覚えた。

喜界島の地下ダムは、ひとつの 「町」 のために、300 億円近い国費が投じられた一大事業だ。
「公共事業は悪」 とする声も多いが、農業に力を入れている喜界島のためにこのような施設を建造することは、決して無駄ではないと私は思う。

上にも書いた通り、2008 年 5 月現在、ダム本体は完成している。
今は、畑へ水を供給するためのパイプラインを整備している段階だ。

このパイプラインが完成すると、喜界島の畑には、スプリンクラーのようなもので農業用水が配水されることになる。
地下ダムの恩恵に与る前は、下の写真のような農業用水配水器までトラックを走らせ、お金を入れ、タンクに水を汲み、それを持ち帰るという作業が発生していた。

これ、家族で農家をやっているようなところでは、大きな負担になるはずだ。

それが地下ダムの建造により、今後はスプリンクラーから水が出るようになる。
農家の人たちは、水の心配から解放され作物の育成に専念できるようになる。

素晴らしいことだな、と思う。

日頃、あまり農業について考えることがない自分にとって、貴重な体験をすることのできた時間だった。